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長年抱いていた疑惑が遂に(よろしくない方向で)晴れた瞬間だった。
そして、どっかで聞いた言葉で言うと、自信が確信に変わった瞬間でもあった。
元TMネットワーク(TMN)ギタリスト・木根尚登氏が
「実はギター弾けなかった。エアギターだった」
と、とあるテレビ番組で告白したのだ。
TMネットワークに対して一般的な知識の人にとっては、かなり面白い衝撃発言・・・で済んだ。
しかし、ある程度ハマった過去がある人の脳裏には、「だよねっ」という心地よい納得と同時に、凄まじいまでに悲しい彼のトップアーティスト人生がよぎったに違いない。
TMネットワーク。
現在の若い人にとっては「TM」と言ったら当然のように消臭力の人だろうから、説明が必要だろう。
あの小室哲哉氏が所属していた3人組のバンドである。
はじめてTMネットワークを知ったのは、中学校の時だった。
部活の後輩が興奮した様子で、「なんかすごいっス。ピアノが自動的に動くっス。」と前夜の音楽番組の話をしていたのが一番最初のアプローチだったと記憶している。
やたらとハイテクなものに憧れる世代。今思えば、その時点でTMネットワークとただならぬ関係となる可能性は十分にあったのだが、過去記事でも散々話したように、その頃既におれはかるろすと共にゆるふわなミュージックライフを送る道を頑ななまでに歩んでいたのだ。
参考>>>【74′log移植】マニアック路線の始まり 1986オメガトライブ
参考>>>【74′log移植】新体制・カルロストシキ&オメガトライブが何かと酷かった。
さて、「コムロ」と「ヒムロ」の違いも分からぬまま、木根さんと寺尾聡の見分けもイマイチつかぬまま、宇都宮隆にほのかに餃子の香りを感じたまま、おれは男子校に進学し、若気の至りでバンドを結成する。
担当決めの際、リーダー格だったクラスメイト・T君がボーカルをやるかキーボードをやるかひどく悩んでいた。そこで、習っていたわけではないが鍵盤には多少心得があったおれは、キーボード担当を申し出る。T君、ちょっと残念そうにしながらもボーカルをやることに決定。
「花形のボーカルに決まったのに、なぜあまりうれしそうじゃないのだろう?」と不思議だったのだが、何を隠そう彼はTMネットワークの大ファンで、彼にとって花形はキーボーディストだったのだ。前髪たらし後ろ髪長めのシャギーカットだった彼のやろうとしていた音楽は、TMネットワークコピーだったのである。
こうして、だいぶKYななりゆきでTMネットワークコピーバンドのキーボード担当となったおれ。バンドスコアを見たり、ライブビデオを観たりしていて、次第にある想いが大きくなる。
木根さん、大丈夫・・・?
CD音源で聴くギターの音、バンドスコアに載ってるギターのパート。当然のように正規メンバーである木根さんが弾いているのだと思っていたが、ライブビデオを観ると、木根さん、てんでサウンドに我関せずなのだ。
ギターを抱えてはいるが、そもそも圧倒的に弦触ることが少ない。ヘッドセットマイクの角度を調整している時間の方が長いのでは?と思うほどである。
少し齧れば、彼がギタリストとしてアテにされていないことはハッキリと分かった。
木根さんのギター演奏にスポットが当たることもまぁ全くないわけでは無かった。「Come on let’s dance」間奏で結構長いことギターソロを(多分)演奏している。(4:02あたりから)
とんでもなく初心者ちっくなリフを繰り返し弾くだけ。低音で。しかも、ギターソロでありながらこの音量の小ささは一体・・・。宇都宮さんも木根さんの音に合わせるように稚拙なステップを踏んでいるけど、それすら過剰に見えてしまうほどのショボサウンドだ。
この映像、当時多くの初心者TMファンを〝木根さん応援モード〟に入れたのではないかとおれは推測している。
そんな木根さんがめちゃくちゃ活き活きして見えたシーンがある。「イパネマ’84」という曲のイントロキーボードプレイだ。結構巧いしなんかギター弾いてる時より遥かに楽しそうである。その理由は後程明らかになる。与えられているキーボードがやたらとちっちゃかったのは気になったが・・・。
では、TMネットワークのギターサウンドはどうしていたのか?
ライブビデオでは、後ろの方に〝もう一人の宇都宮さん〟がいて、めっちゃロックにギターをかき鳴らしていた。
この〝もう一人の宇都宮さん〟こそが、後にB’zとして大ブレイクし、日本を代表するギタリストとしてグラミー賞まで獲っちゃった〝たっく松本〟である。
ちなみにこの〝たっく松本〟。TMネットワークのライブでは結構な汚れ役を任されていた。ミュージカル形式のライブツアー「CAROL」では、ヴィランとしてギターをかき鳴らしながら「CAROL」役の白人女性に絡み、正義の味方宇都宮さんが発するレーザー光線にやられてショッカー戦闘員のようにかっこ悪く退散するなんてシーンまであるのだ。
後にB’zがブレイク。ライブの「Love Phantom」で、〝たっく松本〟がセットのてっぺんに登った稲葉こうし氏をギターから出るレーザー光線で撃ち落としたパフォーマンスは、絶対にあの時のうっぷん晴らしだったとおれは思っている。
※今回の記事とはあまり関係ないけど、動画も。予告もなく、「新曲」とアナウンスすることもなく、いきなりライブのこのパフォーマンス。恐ろしい・・・。
いずれにしても、TMネットワークので〝たっく松本〟のパフォーマンスは、後にB’zファンとなる人々がまず最初に乗り越えなければならない〝黒歴史〟となったことは言うまでもない。
話を木根さんに戻そう。
木根さんが心配過ぎて、色々調べてみた。そこで衝撃の事実を知る。
木根さん、元々キーボーディストだった。
そこに小室氏が割り込んできた。
そして、こんなやりとりが繰り広げられたというのである。
小室 「キーボード二人いらなくね?」
木根 「何だよ。後から入って来たくせに!」
小室 「木根くん、こないだギター弾いてたじゃん。ギターでよくね?」
木根 「アコギでちょっとコード弾いただけじゃん。無理だよ。」
小室 「音出さなきゃ大丈夫だよ♪」
木根 「・・・。」
冗談のようなホントの話である。
そんな風にして生まれたエアギタリスト・木根さん。
コミカルな彼の性格を考えれば、どこかのタイミングで現在の「ゴールデンボンバー」のように「エア」を全面的に押し出し、「弾けるフリ」よりはよほど恥ずかしくないであろう売り方をしていくことは十分可能だったはずだ。
しかし、TMネットワークが予想外のスピードでブレイクしてしまったためなのか、木根さんはとんでもない事態に陥れられてしまう。
「日本TOP3ギタリスト」に選出。
ポール・マッカートニーと対談。
せっかく「エアギター」さえ武器に出来るキャラクターを持っていながら、もうそれすらも許されない状況に追い込まれてしまった木根さんは、〝たっく松本〟が「もうやってらんね。歌の巧いイケメン捕まえたんで抜けまーす」とTMを去っていったこともあり、本腰入れてギターの練習を始めようとしたのである。
が、小室氏は木根さんにとって疫病神だった。木根さんがギターの練習に専念できないよう先手を打っていたのである。
「木根君、小説書きなよ。才能あると思うよ(ニコッ)」
ホントはギターの練習したいのに言われるがままに小説を書く木根さん。先述した「CAROL」は木根さんの書いた小説に沿ったストーリー仕立てのライブであり、一応ちゃんと報われてはいるのだが、この小説の「後書き」はなぜか小室さんが書いており、別に言わなくてもいいのに
「彼に小説を書かせたのは、実は僕です」
という一文をぶち上げている。
木根さんの手柄は、自分の手柄。なんて欲張りなんだこの人。
これ、小室氏の「木根、メインギタリストになんか絶対しねー」っていう策略であり、同時にせめてもの気遣いだったのかもしれない。
実際、〝たっく松本〟が抜けた後、小室氏は木根さんにメインギターを任せず、外国人ギタリストを引っ張ってきて、「TMN」とグループ名を変えロック路線に変更。初心者ギタリスト木根さんには到底出来ないようなテクニカルでハードなギターサウンドを随所に散りばめた新サウンド路線を歩み始めたのだ。
木根さんもこの嫌がらせにはさすがに堪えたようで
「アルフィーに入れてもらおうかな。坂崎さんがおいでって言ってくれてるし」
などとテレビ番組で発言している。
しかし、小説が、「CAROL」があったから木根さんはどうにかこうにかアルフィー移籍を踏みとどまれたのだろうから、やっぱりそこは小室さんのおかげだ。
実は、木根さんのコミカルキャラクターを封じたと思われる分岐点がある。それがグループ名。
TMネットワーク。
公式ファンクラブが「タイムマシン・カフェ」という名称だったこともあり、誰もが「TM=タイムマシンの略」だと信じて疑わなかったが、これ、実は・・・
多摩(TAMA)
だったというのである。この3人の出身地が多摩だったから。
もしもグループ名が
・たまネットワーク
・多摩ネットワーク
だったら・・・。
小室氏ではなく、木根さんの独り舞台になったかもしれないし、テクノサウンドの「さよなら人類」が生まれていた可能性だってあるのだ・・・。
グループ的にまったく役立たずみたいな書き方をしてしまったが、作曲家としての木根さんはそれなりにTMネットワークに貢献している。
Winter Comes Around (冬の一日)
GIRLFRIEND
Confession ~告白~
Sad Emotion
Time Passed Me By (夜の芝生)
Telephone Line
知名度の高い「これぞTM!」って曲は殆ど小室氏の作品だが、「TMらしくない」しっとり系の隠れた名曲はたいてい木根さんの作品だったりする。
だが、ここでも木根さんに小室氏の仕打ち。頑張っていい曲を作っても、アレンジを担当するのは小室氏。彼の匙加減ひとつで、木根さん作の名バラード曲にウ〇コ漏れちゃいそうな間抜けな音をはめ込まれてしまうのである。
これをおれ達は
〝「愛をそのままに」イントロ現象〟
と呼んでいる。
掲載出来るような動画が見つからなかったので、どうにか検索して聞いてみて欲しい。せっかくのいいバラードなのに、ホント、漏らしそうなイントロだから。
そんな風に虐げられ続けた木根さんにも逆襲のチャンスが訪れる。
後に小室氏がGlobeで何を思ったのかギターを持ち出したのである。小説を書きながらもなんとかギターを練習する時間を捻出し、ちょっとだけギターが弾けるようになっていた木根さんは、ようやくここで上から目線で
「弾けるようになった?」
と小室氏にイヤミな質問を投げかけることが出来るようになったのである。
めでたしめでたし。
木根さんのTMネットワーク時代を思えば・・・
ダンサーとして機能せぬ状態で裏方作業ばっかりやってるこの状況・・・これくらいでグズグズ言ってられないな・・・と思えるのである。